引越しの際の掃除は、手間を掛けずに要点だけサッと済ませたいものです。しかし、引越しの掃除を簡単に済ませても良いものなのか、よく分からない人が多いといえます。
引越しの清掃を簡単に済ませてしまい、敷金が返還されなかったとなれば目も当てられません。そこで今回は、退去前の掃除の必要性、掃除の範囲、敷金返還との関連性など、引越しの掃除に関連する情報を詳しくご紹介していきます。
結論から言いますと、退去前の部屋の掃除は最低限必要です。ただし、自らハウスクリーニングを入れてまで行う、大規模な掃除は必要ありません。余談ですが、大家さんによっては、何もせずに退去して良いと促しているケースもあるようです。
引越し後の掃除は、ハウスクリーニング業者が行います。基本的には、最低限の掃除だけで問題ありません。とはいえ、1つ抑えておきたいことがあります。それは、原状回復についてです。賃貸契約を交わした際に、退去時の原状回復の範囲は例外なく決まっています。
原状回復の内容をしっかりと把握した上で、部屋の隅々までピカピカにしてから退去するのではなく、常識の範囲内で掃除をしておけば問題ありません。
尚、賃貸契約の最初の更新日を迎える前に退去すると、汚れに対する見方が若干厳しくなることがあります。汚れや損傷の度合いによって、経年劣化によるものだと判断されないケースがあるからです。
とはいえ、日頃から定期的に室内を清掃しておけば、そのようなことは起こりません。
引越しの掃除は、どこまでやっておけば問題ないのでしょうか。掃除が好きな方は、張り切って掃除をしたいところですし、掃除が嫌いな方はできるだけ楽をしたいのが本音です。
手っ取り早いのは、不動産管理会社へ確認することだといえます。最低限掃除しておいた方が良い箇所を確認し、その箇所だけを少々念入りに掃除すれば、退去トラブルを未然に防ぐことが可能です。
驚くほどピカピカにする必要はありませんし、常識の範囲内で一般的な普通の清掃をしておけばよいと覚えておきましょう。別項で清掃方法について触れますが、たとえば照明の埃、キッチンの油汚れ、お風呂や洗面所の排水溝の掃除は、退去前に済ませておきたいところです。
年末の大掃除ほど大がかりな掃除は必要ありませんが、最後に室内を見回した際、綺麗になったことを感じるかどうかがポイントとなります。
退去時に清掃をしないと、敷金が返還されないことはあるのでしょうか。厳密にいうと、掃除をしないと敷金が返還されないというルールはありません。
ただし、大家さんが借主の『故意』や『過失』による損傷や汚れだと判断した場合、敷金の返還に至らないケースがあります。なぜなら、敷金から清掃代や修繕費を差し引くからです。
他にも、賃貸契約の中で特約が設けられており、敷金からハウスクリーニング代が差し引かれるケースも珍しくありません。一定期間を経てから退去すると、敷金は借主に返還されるものですが、ケースバイケースだということです。
余談ですが、綺麗に掃除をしてから退去すると、大家さんの厚意で修繕費が減額されることがあります。掃除をすれば必ず減額になるとはいえないものの、引越しの際は掃除をしてから退去した方が、スムーズに敷金が返還されるといえそうです。
敷金返還の話で必ず登場するのが『原状回復』という言葉です。この項では、原状回復の本来の意味について、詳しく取り上げていくことにします。まず最初に知っておきたいのは、借主の原状回復義務です。
借主の原状回復義務とは、『借りた部屋を返すときは、元の状態に戻してから返します』という義務のことです。ただし、元の状態に戻すとはいえ『経年劣化による汚れや損傷まで元に戻す必要はない』ルールとなっています。
日常生活を送る上で発生してしまう汚れは、致し方ない汚れであるため、原状回復は大家さんが行うのが一般的です。
大家さんと借主のどちらが原状回復の責任を負うのか、線引きを明確化するために作られたのが、国土交通省が発表した『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』となっています。
『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』の概要を把握しておけば、注意点や原状回復の責任範囲が明確になります。そのため、マンションやアパートから引越しをする際、掃除がとても楽になるはずです。
ただし、『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』には法的な効力はなく、現状回復義務の範囲は賃貸契約書ごとで異なります。
この項では、原状回復の大家さん負担、入居者負担の範囲についてみていくことにしましょう。それぞれの負担範囲が分かってくると、引越しの掃除のコツが明確になります。一部の情報を以下にまとめました。ぜひ参考にしてください。
大家負担 | ・日焼けや電気焼けによるクロスの変色 ・カレンダーやポスターの跡 ・画鋲、ピンによる穴(下地ボードの張り替えなし) |
---|---|
入居者負担 | ・壁に打ち付けた釘、ネジの跡(下地ボードの張り替えあり) ・結露予防を怠ったことによる腐食、シミ、カビ ・タバコによるヤニ、ペットの臭いが極端に染みついている |
大家負担 | ・日焼け、雨漏り(建物の欠損が原因)による床の色落ち ・家具や家電を設置したことによる設置跡 ・ワックスがけ(フローリング) |
---|---|
入居者負担 | ・不注意によるフローリングの変色 ・不注意によるカーペットのカビ、汚れ、シミ ・冷蔵庫や冷凍庫下のサビ ・机や椅子によって出来た床の傷やヘコミ |
大家負担 | 古くなってきた給湯器や換気扇、空調機 |
---|---|
入居者負担 | ・浴槽内の掃除を怠ったことによる水アカ、カビ ※トイレ、洗面台も同様 |
大家負担 | ・冷蔵庫裏の電気焼け(通常使用に限る) |
---|---|
入居者負担 |
・ガスコンロ、換気扇の極端な油汚れや煤汚れ ・キッチン全体の油汚れやサビ(清掃によって防止できたもの) |
どんなに掃除を頑張ったとしても、入居者側で原状回復することが難しいものがあります。代表的な例を3つ挙げますので、ぜひ参考にしてください。
なんらかの衝撃で窓ガラスやガラスにヒビが入ってしまった場合、自力でどうにかすることはできません。この場合は、速やかに不動産管理会社へ相談するようにしましょう。
室内の状況にもよりますが、ヤニによる変色や臭いが部屋のクロスに染み付いてしまうと、自力で対応することは難しいものです。この場合、室内のクロスをすべて張り替えることになります。
当然、敷金の中から支払われることになり、万が一費用が不足した場合は、追加で支払わなければなりません。賃貸物件によっては、喫煙を一切禁止している部屋もあるほどです。
引越しの掃除を行う際に、ヤニのことが気になるようであれば、煙草を控えるようにしましょう。
状況によって話は異なってきます。とはいえ、壁や床が腐食している状況だと、自力で修理することはできません。
この場合、引越しの掃除をした後に敷金は返還されないと思っていた方が無難です。返還されるどころか、追加で費用を請求される可能性があります。
計画的に引越しの掃除を行わないと、間に合わない事態が発生します。旧居の引越し作業の後は、新居の片付けも待っているため、できるだけスムーズに必要な箇所のみ綺麗にしたいものです。今回は、効果的な掃除方法を詳しくご紹介します。ぜひ参考にしてください。
掃除機で埃を取ります。市販されている、家庭用の中性洗剤を水で薄めてください。濃度は5%程度で十分です。濡らした雑巾を固く絞って、汚れが酷いところを叩くように拭きとっていきます。
クロスによっては、中性洗剤が合わないことがあるため、変色しないか必ず試し拭きしてください。問題がないことを確認してから、掃除を始めましょう。
もしもクレヨンの楽書きが目立つ場合は、アイロンを低温に設定し、楽書きの上に布を乗せてから押し当てます。クレヨンは熱で溶けるため、溶けて色が布にうつるはずです。あとは、先程も登場した洗剤液を雑巾に含め、軽く拭き取るだけで綺麗になります。
画鋲や釘の穴、傷による凹み、接着フックを外した際に残った接着剤は、可能な限り自分で修復できるか試してみましょう。
ホームセンターへ行くと、クロスの傷や穴を埋めるための商品や、傷ついた柱を修復するグッズが販売されています。柱の小さな凹みであれば、割り箸やつまようじで穴を埋め、湿った布を当てながらアイロンを掛けるだけで、ある程度目立たなくなります。
接着フックを外した際に残った接着剤は、お酢を染み込ませることで除去できますので、ぜひ試してください。
壁と同様に、まずは掃除機で埃を取りましょう。その後、家庭用中性洗剤を薄めたもので汚れを拭き取っていきます。クイックルワイパーのような、掃除シートを使っても問題ありません。
ただし汚れが酷いところは、洗剤を染み込ませた雑巾で拭き掃除をしてください。固く絞らずに拭き掃除をすると、濡れたところに埃が溜まってしまいます。床がすぐに乾かないようであれば、から拭きをしましょう。
元々カーペットが敷いてある部屋の場合、出来る限りシミを除去しておくこともポイントとなります。シミ抜きを使えば、比較的簡単に除去できます。
また、長年家具を置いたことで凹んでしまったくぼみは、水を湿られた布を被せて、中温のアイロンで温めてください。ブラシを使ってカーペットの毛を起こしながら作業すると、凹みが目立たなくなるはずです。
日光による畳やけは致し方ありませんが、畳が黄ばんでいる場合は、みかんの皮の汁で黄ばみを除去できることがあります。バケツの水の中にみかんの皮の汁を入れて、固く絞った雑巾で畳を拭くだけです。
掃除機やハタキを使って埃を取り除きます。汚れが酷いところのみ、薄めた洗剤を染み込ませた雑巾で拭き掃除をしましょう。その際、照明の傘も綺麗にしておきたいものです。
キッチン周辺の掃除は、重点的に掃除をしておきたい場所です。油汚れ、水垢を取り除いていきましょう。
油汚れは、薄めた洗剤で拭き取るよりも、百円均一やホームセンターで販売されている『油汚れ除去シート』を使った方が楽に掃除をすることができます。
溝に入り込んだ油汚れは、薄めた洗剤を湿らせた布で拭き取りますが、ほとんどの油汚れは『油汚れ除去シート』で綺麗になるものです。
換気扇の油汚れも同様に、『油汚れ除去シート』を使ってみましょう。どうしても落ちない箇所のみ、洗剤を吹きかけて後から拭き取ったり、つけ置き洗いをしてください。
油汚れを除去してから、ステンレスのサビ・焦げつきに気付いた際は、漂白剤やクレンザーでこすって綺麗にしましょう。
キッチンのシンクに付いた水垢は、スポンジを使って落とすことができる範囲で問題ありません。排水口のぬめりに関しても、細かなところまで掃除をする必要はないものです。
排水口の詰まりは、重曹を使うと便利です。排水口に直接重曹を入れて、熱湯を掛けるだけで詰まりが解消されます。排水口の近辺の部品や設備が熱湯に弱い場合は、少々温度を低めに調整して掃除をしましょう。
お風呂、トイレ、洗面所の掃除は、主に水垢・カビ・排水口の掃除となります。以下にまとめましたので、参考にしてください。
お風呂用洗剤を使って、一通り掃除をしましょう。その際、排水口のぬめりや髪の毛を除去しておきます。排水口の通りを良くするために、前項でも登場した重曹を使っても問題ありません。
お風呂のカビは、市販されているカビ除去用の洗剤を使用し、最後にお湯で流して下さい。ぱっと見たときに綺麗になっていれば十分です。
トイレの掃除は、トイレ用の洗剤を使って普段通り行います。便器の裏側、床まで綺麗に拭き掃除をしましょう。トイレタンクの水垢は、必ず除去しなければならない箇所ではありませんが、専用の洗剤を使えば綺麗になります。
洗面所は髪の毛が散乱しやすい場所です。場合によっては掃除機を使いながら、髪の毛や埃を取り除くようにしましょう。鏡の拭き掃除を行い、最後に排水口の髪の毛やぬめりを除去していきます。排水口が詰まり気味なときは、重曹を活用してください。
窓は新聞紙で拭き取ると、インクがワックスの役割を果たすため綺麗になります。新聞紙がないときは、市販されている洗剤か窓専用の掃除シートで掃除をしましょう。
ホウキとチリ取りで掃除をしてから、水撒きをすれば掃除は完了です。バルコニーにある排水口が詰まっている場合は、ゴミを取り除いておきましょう。
室内、室外共に、埃を取り除いておきましょう。壁が腐食していたり、自力で掃除をすることが困難な状況であれば、早めに不動産管理会社へ相談をしてください。
寒冷地の場合、元々室内に暖房器具が設置してあるものです。退去時は掃除機で埃を取り除き、汚れは一通り拭き取っておきましょう。
また、フィルターに埃が付着している場合は、掃除機で吸い取っておくことをお勧めします。
引越し時に掃除をせずに退去した場合、どうなってしまうのでしょうか。対応は大家さんや管理会社ごとで異なりますが、原状回復のルールに沿った対応となります。前項でも触れたとおり、入居者には原状回復の義務が課せられているからです。
その原状回復の義務を果たしていないと判断された際は、別途クリーニング料を請求されることがあります。部屋をできるだけ綺麗な状態で保ち、入居者に住んでもらうことが大家さんの目的ですので、汚れたまま退去するのはルール違反です。
最悪の場合、引越しの際に掃除をしなかったという理由から、敷金が返還されない可能性があります。見た目が綺麗になっていれば、そこまで細かく掃除をしなくても問題ありません。目立つ箇所だけでも、重点的に掃除を済ませておきましょう。
それでは最後に、賃貸物件の退去時に寄せられる質問の中から、代表的なものを3つピックアックしながら解説していきます。参考にしてください。
穴の状態によります。
壁のクロスの裏側にあるボードまで到達していない場合、ホームセンターで販売されている穴埋めグッズを使って穴を埋めれば問題ないことが大半です。ただし、壁にたくさんの穴が空いていたり、穴のサイズが大きい場合は、あとから修繕費を請求されることがあります。
汚れの状況と居住年数によって対応が変わります。
国土交通省のガイドラインでは、6年で残存価値が1円となるような負担割合を算定することになっています。たとえば、入居して2年経過してから退去するとしましょう。
特に問題が無ければ、修繕費を負担することはほぼありません。ただし、クーラーからの水漏れ、壁の汚れ、煙草の臭いやヤニによる汚れの場合、入居者が7割負担するケースが目立ちます。
入居から6年経過しており、残存価値が1円となっている場合は、クロス代だけ請求されることもありますし、修繕費は請求されないこともあるようです。契約書の内容によって、負担する割合は異なるため、まずは契約書の内容を確認してください。
国土交通省のガイドラインによると、柱の傷を修復する費用は入居者負担となっています。ただし、引っ越し業者がつけた傷であれば、引越し業者へ修繕を依頼しましょう。
できれば新居へ引越しをする前に、掃除をしながら入居する前の室内をチェックしておきたいものです。もしくは、不動産管理会社の担当者立ち合いの下、室内の傷やへこみのチェックを行いましょう。
室内のドアや凹凸のある壁は、傷が付きやすい場所です。写真撮影をして、証拠を残しておくことをお勧めします。引越し時に発生した室内の傷のことで、引っ越し業者とトラブルになるケースは少なくありません。
傷がついてから時間が経過するほど、話がこじれてしまいますので、誰が傷をつけたのか明確にし、早めに対応するようにしましょう。
今回は、引越し退去時の清掃について詳しくご紹介しました。繰り返しになりますが、退去時の掃除は隅々までしっかり行うものではなく、抑えておきたい箇所のみ綺麗にしておけば問題ないものです。
室内全体の清掃も、普段通りの掃除を行った上で、汚れが目立つところだけ重点的に綺麗にすれば、修繕費を請求されるようなことはありません。
引越しの荷造りを行いながら、並行して掃除を行うことは手間ですが、計画的に進めることで退去日の掃除が断然楽になります。今回取り上げた情報を参考にしながら、気持ち良く部屋を退去して、敷金はしっかりと返還して貰いましょう。